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2006.12.01

マリス・ヤンソンス指揮 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 演奏会

モーツァルト:ピアノ協奏曲第25番ハ長調 K.503 (独奏:内田光子 )
        【アンコール:モーツァルト ピアノ・ソナタ 第10番より第2楽章】
マーラー:交響曲第1番 ニ長調「巨人」

指揮:マリス・ヤンソンス
管弦楽:ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

東京文化会館 大ホールにて。

 フランスの月刊音楽誌「音楽の世界」が音楽専門家を対象に「ヨーロッパのベスト・オーケストラはどこか?」という調査を初めて行ったところ,栄えある第1位にはウィーン・フィルが,そして1点差の第2位にロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(以下,RCO)が入ったそうだ(詳細は下)。つまり,この秋はヨーロッパの2大オーケストラが来日したことになる。

 RCOは1888年に創設された伝統あるオーケストラで,2004年シーズンからマリス・ヤンソンスが第6代目の首席指揮者を務めている。今回の来日公演は11月25日の京都に始まって,全8公演が行われる予定だが,東京での3公演はすべて完売になっているようだ。

 最初はモーツァルトのピアノ協奏曲。オケは対向配置で,第1ヴァイオリンの後方にコントラバスが陣取っている。編成は1st vn. 10 / 2nd vn. 8 / Vla. 6 / Vc. 5 / Cb.4。序奏が始まった途端,モダン奏法の響きに軽い衝撃を覚えてしまった。11月は図らずも“ピリオド・アプローチ月間”となってしまい,ピリオド奏法の演奏会ばかり聴いていたから,モダン奏法がかえって新鮮に聴こえたわけである(苦笑)。そもそも私はモダン奏法でもピリオド奏法でも,どっちでもいいのだ。演奏のクオリティーさえ素晴らしければ。多様なスタイルが共存している状態こそが文化的に豊かな状態なのであって,選択肢が1つしかなかったら,どんなに味気ないことだろう。ヤンソンスは完全にモダン・スタイルだったが,RCOの明るめで重たくない響きを巧く生かして,ソリストをしっかりとサポートしていた。

 ソリストの内田光子は,1970年のショパン国際コンクールで第2位入賞したピアニスト(この時の第1位はギャリック・オールソン)。日本人の演奏家(歌手を含む)の中で最も国際的に実績を積み,評価されている人だと言っていいだろう(比肩するのは,ヴィオラの今井信子くらいだろうか?)。しかし,ロンドンを拠点にしているために日本での演奏会は少ないし,モーツァルトやベートーヴェン,シューベルトを中心に取り上げていて,日本人の好きなショパンやリストなどのロマン派の作品をあまり演奏しないせいか,日本ではクラシック(ピアノ)愛好家以外にはあまり知られていないようだ。彼女のモーツァルトには1音1音の意味を徹底的に吟味するような緻密さがあり,表情が万華鏡のように刻々と変化していくのだが,今日はそれほど移ろいやすさはなく,もっと堅固な芯を感じさせた。アンコールのピアノ・ソナタの方がすぐに散り去ってしまう桜の花のようなはかなさがあって,私の魂に深く響いてきた。

 彼女は現在,クリーヴランド管のレジデント・アーティストとして,モーツァルトの協奏曲全曲の弾き振りをしているそうだ。日本のオーケストラもこういう企画をやればいいのに(←内田光子に相手にしてもらえないのか?)。

 後半の「巨人」では配置を変更し,下手から1st vn.(18) / 2nd vn.(16)  /Vc(12) / Vla.(14),上手後方に Cb.(9)。配置を換えてもヤンソンスは混乱しないのだろうが,なぜモーツァルトでは対向配置にしたのだろうか(←流行だから?)?

 第1楽章は朝霧の森の中でカッコウが鳴いているようなすがすがしさがあって,いわゆる“マーラーらしさ”は希薄だ。しかし第2楽章になると,だいぶ濃度が上がり,ホルンはバリバリにベルアップしているし,中間部の優美なレントラー風の主題も思い入れたっぷりに演奏する。第3楽章もやはりロマンティックな中間部が美しく,大きな“揺れ”が印象的だった。そして終楽章。RCOの響きが重くないせいか,フォルテシモでもガツーンとしたパンチが感じられない。なんかフワーッと広がっていってしまうのだ。それなのにちっとも不足を覚えない。きっとこうしたテイストがRCOの個性だからだろう。指揮者の指示もさることながら,オーケストラ自身が確固たるカラーを持っているのだ。このオーケストラには前述した響きとともに,まろやかで落ち着いた風格がある。マーラーでは前半のモーツァルト以上にこのオーケストラが長年に渡って築いてきた個性,言い換えれば伝統の強さを感じ取ることができた。

 でも,個人的な好みで言うと,せっかくマーラーをやるなら2番以降が聴きたかった。シャイーがRCOの音楽監督だった時代に『マ・メール・ロワ』や『シェーラザード』などを聴いたが,ああいうプログラムの方がいいな。ましてや(別プロの)『新世界より』なんて,全く触手が動かない。

 
【ヨーロッパのオーケストラ・ベスト10】
第1位:ウィーン・フィル(86点)
第2位:ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(85点)
第3位:ベルリン・フィル(79点)
第4位:ロンドン交響楽団(55点)
第5位:ドレスデン歌劇場管弦楽団(48点)
第6位:バイエルン放送管弦楽団(47点)
第7位:ライプチヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団(37点)
第8位:サンクトペテルブルク・フィル(31点)
第9位:チェコ・フィル(12点)
第10位:フィルハーモニア管弦楽団(9点)
(ドイツのオケが4団体入っているのに対して,フランスやイタリアはゼロという結果に終わっている)

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Comments

 「ヨーロッパのオーケストラ・ベスト10」に関連して。かつてウィーン・フィルと共に“2強”と目されていたベルリン・フィルは,カラヤンの死後,急速に伝統的な個性を失ってしまった。機能性やテクニックにおいては相変わらず世界一かもしれないが,すっかりユニバーサルなスタイルとなってしまい,ドイツ風の重厚さは完璧に失われてしまった。それが評価を落とした原因と考えるのは早計だろうか?確かに21世紀に入って,時代の美意識や嗜好も20世紀から変化しつつある。しかし,クラシック音楽が文字通り西洋の“古典芸術”であるならば,「伝統と時代の嗜好をいかにマッチさせていくか?」ということが命題なのではないだろうか?もろちん伝統を死守しようとしても,永久に同じ状態を保持できるはずがない。時代の流れとともに多かれ少なかれ変化していくものだ。ただ,ウィーン・フィルやRCOのような保守的なオーケストラが評価され,ベルリン・フィルのように時流に合わせて個性をフレキシブルに変化させるオーケストラは評価を落とすという事実を前に,「伝統と時代の嗜好とのバランスをどのようにとるのが理想的なのか?」と,しばし考えてしまった。

Posted by: ばけらった | 2006.12.02 at 02:32

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