ニコラウス・アーノンクール指揮 ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス 『メサイア』
ヘンデル:オラトリオ『メサイア』
ソプラノ:ユリア・クライター
アルト:ベルナルダ・フィンク
テノール:ヴェルナー・ギューラ
バリトン:ルーベン・ドローレ
指揮:ニコラウス・アーノンクール
合唱:アーノルト・シェーンベルク合唱団
サントリーホール 大ホールにて。
26年ぶりの来日となったニコラウス・アーノンクール。東京ではウィーン・フィルとの演奏会が4回,手兵ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス(以下CMW)との演奏会が3回あったが,いずれも発売開始と同時に即完売。今年のウィーン・フィルは例年以上に争奪戦が激しかったようだ。私は結局,ウィーン・フィルの演奏会には行けなかったが,CMWの演奏会は2回行くことに。個人的にはCMWの方が興味があったので,とりあえず満足している。
今日は,今回の来日公演の中でも一番の目玉と言えるヘンデルのオラトリオ『メサイア』(「ハレルヤ・コーラス」で有名な作品だ)。会場には見たことのある顔がいっぱい。やっぱり注目度の高い演奏会なんだなと改めて実感した。編成は1st Vn. 6/ 2nd Vn 6 / Vla. 4 / Vc. 3 / Cb. 2 / Ob.2 / Fg. 2 / Trp. 2 / Timp 1 / Cemb. &Org. 1。ソリスト4人に,合唱は(女性14人+男性10人)×2列。
今まで古楽器団体の実演は何度となく聴いているけれど,前時代的な(重厚長大を範とするような)ロマンティシズムを剥奪した,シャープかつヴァイタルな演奏が多かった。短く刈り込んだフレージング,快活なテンポ,鋭角的なアクセント,くっきりとした明暗のコントラスト--そうしたものを駆使しながら,聴き手が音楽に安心して身を委ねることを許さないような,知的な刺激と興奮に満ちた熱い演奏を繰り広げ,手垢にまみれた諸作品を実にヴィヴィッドに蘇生させてきたのだ。
しかし,この日の『メサイア』は全く違っていた。初めて実演に接するCMWは,CDで聴くよりもずっとナチュラル。温かくて純朴な響き。耳を逆撫でない,自然な音楽の流れ。宗教音楽はイベント(式典)を盛り上げるための“装置”としての役割を要求される場合が多いけれど,彼らの演奏には宗教的な荘厳さや法悦感よりも,より根源的な“祈り”が感じられて,柔らかで敬虔な感触があった。それでいて人間界を超越したような神秘的な雰囲気が感じられたのである。まさに妙なる調和。なんて心地良いんだろう!アーノンクールは録音だともっとアクが強いのに,この違いはいったい何?録音時から彼が音楽的に変化しているのか?それとも録音と実演は別物なのか?
終演は10時過ぎだったが,それまでの間,素晴らしい音楽にどっぷりと浸ることができて,本当に幸せだった。終演後,今回のアーノンクールの東京公演を全部聴いている男性が「今日が一番良かった」と言っていたから,今日,聴けたのは大当たりだったようだ。
ちなみにこの日のチケットは,S:25,000/A:21,000/B:16,000/C:11,000/D:5,000だったが,これなら決して高くない。アーノンクールは高齢(もうすぐ77歳)なので,再来日の可能性は低いと思うが,ぜひまた日本で素晴らしい演奏を聴かせてもらいたい。それと彼にはベートーヴェン以降の音楽は演奏してもらわなくていいから,ヘンデルやモンテヴェルディなどの演奏に精力を傾けてほしい(彼がCMWと1986年に録音した『聖母マリアの夕べの祈り』は私の愛聴盤の1つなのだ)。
先日のクリスティ&レザール・フロリサンの『レ・パラダン』(まだ書いていない)も本当に素晴らしかったけれど,今日の『メサイア』を聴いて,ますます18世紀以前の音楽の魅力にハマってしまった私。遅まきながら古楽への開眼が,私にとって今年の最大の音楽的収穫である。


Comments
先日,NHKでアーノンクール&ウィーン・フィルの来日公演(モーツァルトの交響曲 第39,40,41番)を見た。演奏の出来はともかく,「ウィーン・フィルは何故アーノンクールと共演するんだろう?」と思った。アーノンクールがウィーン・フィルと共演する意図は,なんとなくわかる気がするのだけど。
Posted by: ばけらった | 2006.12.02 at 14:17