ブラームス:ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調
(ピアノ:マウリツィオ・ポリーニ)
ブルックナー:交響曲第4番 変ホ長調「ロマンティック」
指揮:クラウディオ・アバド
管弦楽:ルツェルン祝祭管弦楽団
サントリーホール 大ホールにて。
26年ぶりに来日するニコラウス・アーノンクールと並んで,今秋の日本のクラシック音楽界の目玉がルツェルン音楽祭の引越し公演だ。約10日間に渡って,室内楽やポリーニのリサイタル,オーケストラのコンサートが行われ,この日が楽日。ルツェルン祝祭管弦楽団はいわゆる寄せ集めのオーケストラだが,メンバーの豪華さは他に類を見ない。マーラー・チェンバー・オーケストラのメンバーを主体に,元ベルリン・フィルのコンサートマスターのコーリャ・ブラッハー,ヴィオラのヴォルフラム・クリスト,クラリネットのザビーネ・マイヤー,トランペットのラインホルト・フリードリヒ,フルートのジャック・ズーンなどの有名な演奏家たちが綺羅星の如く並んでいる。チェロに至っては,トップがマリオ・ブルネロで,隣りがイェンス=ペーター・マインツ,2プルト目がアルバン・ベルク四重奏団のヴァレンティン・エルベンに,ハーゲン四重奏団のクレメンス・ハーゲンという,あり得ないようなゴージャスぶりである。この顔ぶれならギャラが高くなるのは致し方ないとも思うが,S:\45,000/A:\38,000/B:\31,000/C:\24,000/D:\17,000/プラチナ券:\50,000(ちなみに,もう一方のオーケストラ公演は S:\40,000/A:\34,000/B:\28,000/C:\22,000/D:\16,000/プラチナ券:\45,000)という,世界最高峰のウィーン・フィルやベルリン・フィルをも軽~く越えてしまうほどの超高額チケットとなってしまったのだ。それでも(公演の数日前まではチケットは残っていたのに)全席完売となり,当日売りは一切なしという盛況ぶりである。開演前には何人もの人が「チケット求む」という紙を手にして会場前に立っていた(実はC席あたりをネットで探していた私も,結局ゲットし損ねて,とりあえず会場に出かけたクチだが,紙を持って立たずとも「現地に行けば,チケットは入手できる」という“不敗神話”は未だ健在である)。聞くところによると,オーケストラ公演を4公演全部制覇したツワモノも少なくないらしい。
2000年に胃癌で全摘手術をしたアバドは,写真で見るよりもはるかにふくよかで血色も良かったが,ポリーニはなんだか老け込んですっかり好々爺になってしまっていた。1960年のショパン国際コンクールの覇者で,完全無欠のテクニシャンとして一世を風靡したポリーニだが,この日は冒頭のテーマでミスタッチを犯すなど,明らかに精彩に欠いていて,パワフルな伴奏にすっかり埋没していた。3楽章のチェロ(ブルネロ)の素晴らしいソロの後に,ようやく少しは息を吹き返したが,あまりに覇気のない演奏に心底がっかりした。休憩時間に会った知人に聞いたところ,ポリーニはリサイタルの方が出来が良かったらしい。しかし,前日に同じプログラムを聴いた友人も「ポリーニは調子が良くなかった」と言っていたから,「もはや昔日の面影はない」と判断するのが妥当だろう。
一方のオーケストラはのっけからモリモリ演奏していた。あまりに隆々とした演奏ぶりに思わず苦笑してしまったほど。元気いっぱいのブラームス。伴奏にもかかわらず,ソリストを完全に凌駕しても,全然構う素振りすらないし。
後半のブルックナーも同様。腕達者な上に,1st Vn 18 / 2nd Vn 18 / Vla 16 / Vc 15 / Cb 10という巨大編成も手伝って,実に壮大で,管楽器のソロ(特にホルンの音色の柔らかさ!)には惚れ惚れとさせられたが,ブルックナー特有の,宗教的とも言える崇高さが微塵も感じられず,感動には至らなかった。野球やサッカーで,名選手ばかりを集めても優勝できるとは限らないのと同じように,これだけの名手を集めても,感動的な演奏になるとは限らないのだから,本当に難しいものである。
こういう臨時編成のオーケストラだから,もともとそんなに期待していたわけではないけれど,「やっぱりチケット代に見合う価値はなかった」というのが私の結論である。ただ(演奏回数が少ないことも手伝って)ヨーロッパで現在,最もチケット入手が困難な指揮者と言われるアバドを追って,自分がヨーロッパに行くことはないだろうし,彼ももう来日しないだろうから,これが聴き納めだと思う。また盛りをとうに過ぎてしまったポリーニ(そういえば「ポリーニのピークはデビュー当時だった」とある人が言っていた)も,もう聴くことはないだろう。そして,ルツェルン音楽祭が再び引越し公演を行っても,聴きには行かないと思う。個人的には,今回大散財したので,しばらくの間,自粛(倹約)モードに入るつもりである(←「どこが?」とツッコミを入れないように)。
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