ムーヴィン・アウト
アバの曲を使用したミュージカル「マンマ・ミーア」の大ヒットに端を発し,「WE WILL ROCK YOU」(クィーン),「OUR HOUSE」(マッドネス)など,特定のアーティストの楽曲を使用したミュージカルが続々と誕生している。これは「現在のミュージカル界に才能のある作曲家がいないための苦肉の策」という厳しい意見もあるようだが,“ポップスの黄金期”と言われている70~80年代ポップスへの懐古が,ミュージカルというスタイルとなって現れていると考えていいだろう。
「ムーヴィン・アウト」はビリー・ジョエルの楽曲を用いたミュージカルで,2003年度のトニー賞で,最優秀編曲賞(ビリー・ジョエル)と最優秀振付賞(トワイラ・サープ)を受賞した話題作だ。ビリー・ジョエルの音楽や歌詞が非常に重要な役割を果たしているのが特徴で,幕が上がると,舞台上方にミュージシャン達が陣取り,その中央でピアノマンが弾き語りをする。舞台上ではダンサー達がひたすら踊りまくるのだが,台詞はほとんどない。そして歌詞が字幕で映し出されるものの,場面転換や状況の説明も全くないのだ。だからバレエを観るようなつもりで,予め大まかなストーリーや人間関係を頭に入れておかないと,訳がわからなくなってしまう。
原案,振付,演出のトワイラ・サープ(1941~)はアメリカの人気振付家。若い頃にはバレエをはじめ,マーサ・グレアム,マース・カニングハム,ポール・テイラーといったアメリカのモダン・ダンスの大御所達に師事したほか,ジャズ・ダンスなども学んだという。70年頃までは前衛的な作風だったそうだが,それ以降はバレエ,モダン・ダンス,社交ダンス,ジャズ・ダンス,タップなどの様々な要素を取り入れたエネルギッシュかつ高度な技術を要する作品を作るようになったとのこと。そしてアメリカン・パレエ・シアターでの第1作となった「プッシュ・カムズ・トゥ・ショヴ」(1976年)は,全盛期だったバジリニコフの当たり役となり,彼女の名前を一躍有名にした。その後,88~90年には同バレエ団の芸術監督も務め,現在も同団に新作の振付を行っている。バレエ作品以外にも映画「ヘアー」「アマデウス」や,ミュージカル「シンギン・イン・ザ・レイン」などの振付けている。
私はトワイラ・サープの振付に期待していたのだが,この作品においては“ボキャ貧”の印象は否めなかった。確かにダンサーは最初から最後までエネルギッシュによく動く。特にクルクルとよく回るのが印象的だ。このあたりにはクラシック・バレエの影響を感じさせる。アクロバティックな振付も多くて見応えはあるけれど,ワンパターンな印象は拭えないし,表現の底が浅いのだ。特に作品の中核を担うベトナム戦争からの帰還後(第2幕)が物足りなかった。トラウマを抱えたエディがドラッグや酒,女性に溺れるシーンでは,彼の感情の表層部分しか描けていなかったように思えたし,振付自体がありきたり。その後,あるきっかけで立ち直るのだが,それがあっという間の出来事で「こんなに簡単に立ち直れちゃうものなの?」と拍子抜けしてしまった。同様にトニーとブレンダのカップルも,2人の心理的な距離の変化を,もっと説得力のある彼女独自のスタイルで表現してほしかった。私の期待過多だったのかもしれないが,トワイラ・サープなら斬新な身体言語で,人間の心理の繊細な部分までをも露わにしてくれるんじゃないかと楽しみにしていたのに…。
せっかくシリアスなテーマを扱っているのに,ストーリーも表層的だし,振付も単調。しかも結末も陳腐だから,感動が薄い。ブロードウェイ・ミュージカルに奥深さを求める方が間違いなのかもしれないが,ハイスクール時代の仲間達の恋愛物語で終わらせるなら,もっとエンターテイメントに徹すればよかったのではないか。それにこれだけの話題作にしては舞台自体が意外と地味で,大がかりな装置は一切なかった。これもヴィジュアル面での単調さの一因になったと思う。今回は一部Wキャストだったので,別キャストで観るためにリピートしようかとも考えていたが,この1回で打ち止めにすることにした。
エディ:ブレンダン・キング
ブレンダ:ローリー・カンヨク
トニー:キース・ロバーツ
ジュディ:リンダ・シング
ジェイムズ:ショーン・モーリス・ケリー
ピアノ/リード・ヴォーカル:マシュー・フリードマン
原案,振付,演出:トワイラ・サープ
作詞,作曲:ビリー・ジョエル
舞台装置:サント・ロカスト
衣裳:スージー・ベンジンガー
照明:ドナルド・ホルガー
音響:ブライアン・ラグルス,ピーター・フィッツジェラルド
音楽監修,編曲,クラシック・ピアノ:スチュアート・マリナー
ヘアー・デザイナー:ポール・ハントリー
舞台監督:アリソン・ハルマ
舞台監督助手:ケイティ・アーン
演出・振付助手:スコット・ワイズ
技術監督:マイケル・コナーズ
東京厚生年金会館にて。


Comments
はろー!すんごい久しぶりにコメント。
来週、MO観にいきます。いろんな人の評を聞いてるので、
自分の目にどう映るのか、とても楽しみですっ..
Posted by: りとる | 2006.08.23 at 16:22
りとる,コメントありがとー!!
私が観たのは,確か初日から4日目だったんだけど,
今頃は時差ボケも解消して,いい感じになってるかも。
よかったら,感想聞かせてね☆
Posted by: ばけらった | 2006.08.23 at 22:51
シザーハンズを観にいったみたいだよ、MOのメンバーたちが。ブログに出てた。。ふふ。いいね、そういうの。
Posted by: りとる | 2006.08.23 at 23:56
へぇ。いろんなブログがあるんだね~。
お互いにオフの日は観に行ってたりして…。いいね~。
アメリカのダンス作品とイギリスのダンス作品が東京で同時に公演しているんだもんね。そのほかにも「ウエストサイドストーリー」とか「ブラスト」とか,いろいろやってるよね。この夏はてんこ盛りざんす。
Posted by: ばけらった | 2006.08.24 at 00:27